醍醐桜のたもとで小さなピアノコンサートが開かれた
サクラの名所に響く19世紀のピアノの音色 岡山
2007年04月13日06時14分
中国山地の山懐、岡山県真庭市にある樹齢1000年を超えるといわれる醍醐桜のたもとで12日、小さなピアノコンサートが開かれた。演奏したのは、ロシアの作曲家で伝説的なピアニストといわれたセルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)の弟子の米国人・ルース・スレンチェンスカさん(82)。花びらが舞い散る中、作曲家シューマンの妻クララが19世紀のコンサートで使ったピアノの音色がゆったりと流れた。
ルースさんはカリフォルニア生まれ。3歳からピアノを始め、9歳でデビュー。急病のラフマニノフの代役を務めてコンサートを成功させ、弟子入りした。60年代までコンサートやレコード録音に活躍し、ホロビッツら著名な音楽家とも交流した。商業的音楽活動に嫌気がさし、体調を崩したこともあって38歳でコンサートから引退。アメリカの大学などで後進の指導に専念していた。
クラシック音楽愛好家の岡山市の歯科医師三船文彰さん(52)は4年前、台湾でルースさんの演奏に初めて接し、「魂をゆさぶられた」。ルースさんを岡山へコンサートに招いたり、CDを国内で発売するレーベルを設立したりするほどのファンになった。
3年前にルースさんを醍醐桜に案内した際、「この木の下でピアノを弾きたい」とルースさんが言ったのがきっかけでこのコンサートを企画した。
ピアノにもこだわった。「最高のピアノを」と、クララ・シューマンが19世紀にドイツ国内のコンサートで弾いたピアノが国内にあるのを探し出し、所有者に頼み込んで譲ってもらった。
1877年のドイツ製だったが、三船さんに修復を依頼された大阪市の調律師松本安生さん(52)によると、「中身は日本製部品に取り換えられて普通のピアノになっていた」。
2人は武蔵野音大楽器博物館(東京)の収蔵品で同時代のピアノを見せてもらい、素材や構造を徹底的に調べた。フランスやドイツの専門業者に当時の仕様や寸法に近い部品を特注し、できるだけ当時の通りに中身を復元、19世紀の響きを取り戻した。
演奏会は醍醐桜の下での演奏を快諾してくれた地元の人や、三船さんの知人ら200人が見守る中、クララに恋していたというブラームスの「ロマンス」で始まった。聴衆らは目をつむって聴き入ったり、曲が終わるごとに拍手をしたりして、満開のサクラと美しいピアノの音色を堪能した。
演奏を終えたルースさんは「白い鍵盤が花びらのピンクに染まり、醍醐桜も喜んでいるのがわかった」と満足そうだった。
|
| 固定リンク
コメント